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Agentic Commerceとは?(AIが決済まで代行する未来と、新たなセキュリティの視点)


コラム47

Agentic Commerceとは?(AIが決済まで代行する未来と、新たなセキュリティの視点)

2026/8/28

  • 評価分科会

NRIセキュアテクノロジーズ株式会社
押井 翔太郎

 生成AIの進化により、「AIと会話するだけで買い物が完了する」時代が現実になりつつあります。この新しい買い物のスタイルはAgentic Commerceと呼ばれ、従来のECとは大きく異なる体験を提供します。

 これまで私たちは、欲しい商品を自ら検索し、複数のECサイトを比較し、カートに入れて決済するという一連の作業を行ってきました。一方、Agentic Commerceでは、「来週、家族4人でキャンプに行くから、予算3万円で必要なものを揃えておいて」とAIに依頼するだけで、AIが条件に合う商品を選定し、購入手続きまで実行します。従来のAIレコメンドが「おすすめ商品を提示する」ことに留まっていたのに対し、Agentic CommerceではAIが実際に決済まで実行する点が本質的な違いです。

 Agentic Commerceが急速に注目を集める背景には、AIが単なる対話ツールから「作業を代行するエージェント」へと進化したことがあります。さらに、世界的なIT企業や決済事業者では、AIが商品検索や予約、決済までを支援するサービスの提供が始まっています。また、決済ネットワークや通信インフラそのものは既存の仕組みを活用できるため、社会実装のための基盤はすでに整いつつあります。

 一方で、Agentic Commerceはこれまでにないセキュリティリスクも抱えています。従来は「人間を騙す攻撃」が中心でしたが、今後は「AIを騙す攻撃」が重要な脅威となることが予想されます。例えば、悪意ある販売者が、AIに粗悪品や高額商品を選択させるように商品情報を巧妙に操作する可能性があります。また、プロンプトインジェクション(AIに与える指示を第三者が意図的に書き換えること)によってAIの判断を不正に誘導するリスクや、AIエージェントに過剰な権限を与えた結果、意図しない購入や高額決済が実行されるリスクも考えられます。このように、従来であれば人間が気付けたはずの違和感も、AIによる処理の自動化によって見過ごされ、被害が拡大する可能性があります。

 こうした脅威に備えるためには、「AIにどこまで権限を委ねるか」という視点が重要になります。例えば、AIに利用を許可する決済手段は、VisaやMastercardなどの加盟店で利用できるプリペイドカードなど、利用額を制限できるものを選び、必要最小限の利用権限に限定することが有効です。また、利用者側の対策だけでなく、決済事業者側でも安全にAIを活用できる仕組みづくりが進められています。近年、VisaやMastercardは、「AIに自由な決済を許す仕組み」ではなく、「AIが利用者から許可された範囲でのみ決済できる仕組み」の実現に取り組んでいます。さらにサービス提供者は、AIの誤作動や不正利用が発生した際の補償・免責ルールを明確に定め、利用者に分かりやすく提示することが求められます。

 Agentic Commerceは、私たちの生活を大きく変える可能性を秘めた革新的な技術です。しかし、その利便性の裏側には、新しいリスクも存在します。これまでのセキュリティ対策は、「怪しいリンクをクリックしない」「強固なパスワードを設定する」といった、人間自身の行動を守ることが中心でした。これからは、それに加えて「AIにどの程度の権限を与えるか」を適切に設計することが、新しいセキュリティ対策の基本となります。例えば、商品の検索や価格比較、日用品など定型的な買い物はAIに任せる一方で、高額商品の購入や契約を伴う取引、決済手段の登録・変更といった重要な判断は人が行うなど、それぞれの役割を明確に分担することが重要です。このように、AIの利便性を活かしながら、最終的な責任や判断は人が担うという考え方が、Agentic Commerceを安全に活用する鍵となります。

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