【CSIJコラム32(2025,4,30)】
「AIやダークウェブが拡げてしまう犯罪のすそ野」
グローバルセキュリティエキスパート株式会社
西野 哲生
今や私達の生活や仕事の中で切っても切れない関係にあるAI。特に生成AIの様に意図してAIの力を借りるものはもちろん、Webサービスのバックグラウンドなど多くのインターネット環境でAIが稼働しています(Webサイトでのチャットの相手が人間だと思っていたら実はAIだったり・・・)。
多くのAIがリリースされ、その能力を競うことで技術が文字通り日進月歩で高まるなか、倫理的な制限や悪用を防ぐ目的で様々なセーフガードが提供側によって考慮はされていますが、中にはそのセーフガードをすり抜けて特定のプロンプト(AIへの指示)を実行し、犯罪行為に悪用されるものや、そもそも法を犯す行為自体を目的とするAIが散見されるようになってきました。
分かり易いものとしては、AIにコンピュータウィルスを開発してもらうものがあります。これは、「ハッカーは高度な技術を持っており、その技術を悪用して私達に攻撃を仕掛けている」という概念を大きく覆すものとなります。プログラミングやネットワークの知識が無くても、誰もがAIの力を悪用して犯罪行為を行える可能性があり、実際にプログラミングの知識の無い人がコンピュータウィルスを作成し、攻撃行為を行い、検挙される事例も出てきています。
同様にダークウェブ(通常はアクセスできないインターネットの領域、主に犯罪行為に利用されている)ではeコマースWebサイトがあり、ここでは違法薬物や銃器、偽造身分証明書に始まり、皆さんの利用しているWebサービスのログイン情報や、個人情報、コンピュータウィルスが売買されており、そう高くないお金でサイバー攻撃を仕掛ける為の道具が手に入ってしまいます。
2023年3月、IT企業での業務経験を持たない人物が生成AIを使ってマルウェアを開発して金銭を得ようとして逮捕、その後起訴されました。また、2025年2月には中高生グループにより某社通信回線が大量に不正転売される事案も発生しました。この事案では、匿名性の高い通信アプリである「テレグラム」を使用して不正に入手したアカウント情報等を使用して回線を購入~転売を繰り返して金銭を得ており、回線転売の為の不正契約のプログラム開発には生成AIも活用(悪用)されていたとのことでした。
犯行動機の一つには「注目を浴びたかった」ともあり、金銭の詐取だけでなく、このような目的の為に犯罪に手を染めるのか?と一人の親として記事を見て思ってしまう事もありました。
さらに生成AIを使ったディープフェイク投稿も世界中で散見されており、AIの能力を使って安易な気持ちで犯罪やそれに準ずるような行為ができる、またそれを助長するダークウェブの存在が非常に脅威と感じています。
勿論、生成AIは正しい使い方をすれば私達の能力を拡張し、より豊かな生活の手助けになるものです。その能力の高さ故に、利用する私達の倫理観が今後も問われる事になるかと思います。
私が所属するグローバルセキュリティエキスパートでは、主に企業をサイバー攻撃から守り、自衛力を高める事を目的に様々なサービスや講座を提供していますが、このような攻撃を防ぐだけでなく「犯罪者を増やさない」ということ、ましてや未成年がこのような事に手を染めないようにしっかり見守ることも企業や個人だけでなく、社会全体でより必要になると考えます。
この現状を踏まえ、皆さんと共にAIも有効に活用して社会の課題解決にこれからも取り組んでいけたらと思います。